令和5年度 入学式を行いました

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4月8日(土)、令和5年度 西武学園文理中学・高等学校の入学式が狭山市市民会館にて執り行われました。
あいにくの曇り空でしたが、431名(中学校100名、高等学校331名)の新入生が、文理生としての第一歩を踏み出しました。

以下に、校長式辞を掲載いたします。

学校長 式辞(全文)

 新入生の皆さん

 新校長のマルケス ペドロです。
 この度は、西武学園文理中学・高等学校にご入学いただき、誠にありがとうございます。

 西武文理は、今、社会の中に起きている大きな変化に対応できるように、少しずつ変わろうとしています。私が校長に就任したことが、その証だと言えるでしょう。埼玉県において外国人が校長を務める学校を、私は知りません。次世代の日本人の教育に携わることができるという立場に立ち、私は重大な責任を感じています。入学して下さった皆さんの成長を校長室から見守るのではなく、日々の教育に関わりながら、近くから全力でサポートする校長先生として、皆さんのために、そして日本のために、全力を尽くしていきたいと思います。

 さて、先ほど「社会の中に起きている大きな変化」と言いましたが、それを私は、テクノロジーの進化による生成型AIの誕生やSNSの活性化などから見られる「バーチャル世界の正当化」だと考えています。今後もさらに、AIは進化し、情報のスピードも速くなるに違いありません。つまり、皆さんは、私たち大人が生きてきた世界とは違う世界で生き、私たち大人とは違う生活を送り、違う仕事をするということです。
 「それはどんな生き方?どんな生活?どんな仕事?」これらの質問には、大人たちは誰一人答えることができません。もし、答えを知っているという人がいても、その人の言葉に耳を傾ける必要はありません。逆に「当事者ではないあなたに何が分かるのですか。あなたは占い師のつもりですか。」と尋ねてもいいかもしれません。これからどのような世界を作るか、それを決めるのは、若い皆さんしかいません。西武文理では、私たち全教職員がそれを理解しています。
 そして、新しい世界を創造する人、AIをうまく扱って新しい商品やサービスを開発するアントレプレナーマインドを持つ人、人間にしか持てない社会的スキルに溢れる未来のリーダー、私たち大人には導き出せない答えを創ることのできる人の育成を、本校の目標とします。

 情報の流れがそこまで速くなかった20世紀には、「知識伝達型教育」が主流でした。私もこの教育モデルのもとで育ちました。ブラジルで生まれた私は、子供の時はサッカー以外、他に楽しみがありませんでした。スマホも、インターネットも存在しなかった時代です。
 しかし、学校に行くと図書館という魔法の空間があり、そこで本という宝物に触れることができました。そこで初めて日本や他国のことを知ることができました。想像できますか。今なら手元のスマホを使い、1,2秒で簡単にアクセスできる情報を得るために、当時はかなりの努力と時間を要しました。それでも、私は本も、授業も大好きでした。勉強に対するモチベーションが高かったのは、それを通して新しい世界、新しい考え方、未知の発想に出会えたからです。先生はもう神様のような存在でした。「どうやってこの人はこんなにさまざまなことを知ったのだろう」と不思議に思ったり、「この人になりたいな」と憧れたりしていました。しかし、本を宝物のように思う一方で、図書館が閉まっていると本は借りられませんし、いつも借りたかった『ロードオブザリング』が他の生徒に先に取られたりするのはとても残念でした。
 また、授業も、先生との相性が悪かったら、その分野に全然興味を持てなかったです。算数や数学の先生とはなかなかいい関係が築けず、そのせいか、今も私は数学が苦手です。
 私が育った時代には、こういったマイナスな点が他にたくさんありましたが、それを変えようとする大人がいませんでした。全員が私たちを彼らの住んでいる世界にはめようとしていました。

 図書館や本に頼るのはもうご免だと思った若者がいました。その人の名前は、ビル・ゲイツと言います。朝でも、夜でも、自分のペースで情報が手に入る社会をつくるために、Windowsというソフトを開発し、それまで主に研究機関しか使われていなかった「パソコン」を家庭に普及させました。
 スマホもSNSも、同じような経緯で発明されました。これらの発明はすべて、今ある現実に自分をフィットさせるために努力した人ではなく、現実を自分のニーズにフィットするように変える努力をした人が成し遂げました。

 16歳のときに、アルバイトとして教壇に立ってから今日までの間に、生徒のニーズは完全に変わりました。「神様」のように知識を与えてくれる先生は、今の時代にあって、極論を言ってしまえば「もう要らない」存在です。
 長く教育現場に立っている中で、様々な場所で生徒の発言を耳にしてきました。
 「一方的な授業は疲れる」
 「やらされ感がある」
 「授業が面白くない」
 どれも、冒頭に話した「知識伝達型教育」モデルに意味を見いだせないからこその発言です。

 スマホやインターネットが存在する世界に生まれてきた生徒たちからは、50分の間一方的に話す先生の姿は「恐竜」のような昔の生き物に見えることでしょう。それはそうです。生きている世界が同じではないからです。生きている世界が違うというのは、具体的には、情報のスピードに圧倒的な差があるということです。まさに命のリズムが同じではないということだと私は思っています。

 西武文理は私が住んでいた東京でもよく知られています。「良い学校」「生徒は頭がいい」と聞いています。だから、頭のいい入学者の皆さんなら、もう十分理解していただけたかと思いますが、西武文理を今よりもさらに良い学校にし、多くの卒業生に社会で輝くリーダーになってもらえるように、私は「知識伝達型教育」から「生徒中心型教育」へと、無理のない程度に、ゆっくりと、しかし確実に教育モデルを変えていきたいと思います。
 それは勉強を捨てるという意味ではありません。むしろ逆です。勉強に向かうモチベーションが湧いてくるように、生徒が論理的にも実践的にも自発的に参加したいと思える現代的な教育モデルを実践するということです。高速で流通する情報に慣れている皆さんにとって、50分間も大人の話を聞くのは、時間の無駄だと思います。受け身になることなく、生徒自身がアクティブに自分の学びを探究する、自分の未来を描いていく、それに向けて、十分なスキルを先生のもとでいろいろと実際にやってみながら、成長していくというイメージです。
 失敗しないための教育は時代遅れとなりました。たくさん失敗することで、その過程を通して学びが起きます。心配しないで下さい。あなたは一人ではありません。あなたが自分の描いている世界を現実化できるように、常に私たち最先端のスタッフが付いています。転んだときは、立ち上がれるようにサポートします。そうしていく中で、自分も、学校も、日本も、そしていずれは世界も変わっていきます。

 今後はさまざまな実践プロジェクトや探究学習、IT研修を行います。また、生徒自身に「学校を考え直す」機会を与えます。あなた自身が改善に向けてアクションを起こし、その過程で学びを体感する実践的教育モデルを取り入れていきます。今から実際の社会にアクティブに参加してもらいます。なぜなら、今存在する世界にフィットする人間ではなく、今よりも良い世界を考え出す人間を育てることが私たちの目標だからです。
 保護者の方々も心配はいりません。データを確認していただければ分かりますが、国内外の受験結果のデータを見ていると、学びに積極的に参加している生徒の方が進路を実現する可能性が高いのです。しかも、その差は圧倒的です。当たり前だと思いませんか。現代人には現代的な教育しか合いません。

 これ以上長くなりますと寝てしまう方が増えるかもしれませんので、本日の話は、ここまでとさせていただきます。時間の関係で、学校のさらなる国際化や施設の現代化に関する話題には触れられませんが、ここで語りきれないたくさんの新しいアイディアが、すでに先生方から寄せられています。これからが本当に楽しみですね。

 最後に、私から入学生の皆さんにお願いが一つ、アドバイスが一つ、そして命令が一つあります。

 まず、お願いです。何でも相談にきてください。勉強の話でも、進路の話でも、それ以外の悩みでも、何でも歓迎です。私は、いわば皆さんの師匠に当たります。日本人の妻と子供が二人いますが、文理に入学して下さった皆さんも、自分の子供と同じように暖かい視線で見守りたいと思っています。子供のために何でもやる親と同じように、皆さんのために自分の身を捧げます。恐れることはありません。私が皆さんの盾になります。大人がすべての答えを持っていると信じながら育った私は、確信を持って皆さんに言います。全ての答えを持っている人はいません。失敗を恐れずに、一緒に皆さんの成長と成功へと歩んでいきましょう。西武文理で、自分の世界を築いて下さい。私はそれが叶うまで諦めません。

 次に、アドバイスです。誰かに「あなたは〇〇が足りない」と言われてもその意味を正しく理解しておくとよいでしょう。それは「あなたは、私の価値観から見て〇〇が足りない」と言っているにすぎません。そういう意味では、自己中心的で、視野が狭い人の発言とも言えます。もしそのような場面に出くわしたら、その人が視野を広げるための手助けをしてあげて下さい。つまり、視野の広い人間には、視野の狭い人間を指導する義務があります。
 本学園は「ホスピタリティ精神」を育むことに焦点を当てています。これは、外国人である私から見ると、日本文化の強みだと思っています。日本文化の「丁寧で、心配りに満ちた行動パターン」と「人間関係の繊細さに気をつける」という部分は世界的にも評価されています。ホスピタリティ精神を磨き、学問を修め、テクノロジーの実践的な知識を手に入れ、そして想像力と探究力を身につけた自分を思い浮かべてみて下さい。私から見れば、そんなあなたは無敵です。

 最後になりますが、校長命令です。
 HAVE FUN!
 学校生活を十分に楽しんで下さい。本日以降、楽しむことに関して後悔を感じるのを、禁止します。

 本日より、皆さんの校長先生でいられることを心から光栄に思います。
 「変化をもたらす者」として期待されていますが、その変化の主人公は私ではありません。主人公は皆さんです。それを叶えるのが、私のプロとしての任務、人間としての宿命、個人として幸せです。どうぞよろしくお願いいたします。

令和5年4月8日
西武学園文理中学・高等学校長
マルケス ペドロ